EURO2012-ボールを芯でとらえることの難しさ

  • 2012.06.17
By Black and Blue

日経新聞を読んでいたら『西武・中村だけがなぜ統一球を飛ばせるのか』という記事が掲載されていた。プロ野球は殆ど見なくなったので選手の名前すら分からない状況だが、昔は結構見ていたのでおぼろげながらも執筆者の言いたいことはよく分かる。文中には『へっぴり腰のスイングでは話にならないが、腰を回転させ、ミートすればちゃんとホームランになる。統一球はそんなボールだ。打者の力量が正しく計られるボールといってもいい』との一文があったが、これを読んで思い出したのはマラドーナのボールリフティング。

マラドーナがワールドカップに最後に出場したのは確か1994年。今から20年近く前のことだが、ワールドカップ開催前の各国選手の宿泊地を記者がレポートしていたときにこんな一幕があった。開催直前の張り詰めた雰囲気を少しでも和やかにしようという試みだったのか、マラドーナと談笑していた記者がマラドーナにボールリフティングを見せてくれと依頼したのた。ペレのプレイは同時代の体験者としては知らないので個人的には今まで見た最高のサッカー選手はマラドーナかメッシだと思っているが、そのマラドーナのボールリフティングが凄かった。

記者が用意したのは実はサッカーボールではなく、サッカー以外の様々な大小のボール。マラドーナにサッカーボールを持たせたら変幻自在、まるで自分の器官の一部のように取り扱うのは目に見えているので、サッカーボール以外のビーチボール、バレーボール、テニスボール、そしてピンポン球、こんな感じで大きいものから小さいものまで順番にリフティングを始めていったのだ。

もちろん本人は余興のつもりでプレイしているのだが、どのボールをリフティングしてもサッカーボールと同じように扱う、その技術の高さに驚いてしまった。マラドーナにとって、ボールは全部ボール。サッカーボールであってテニスボールであっても大きさが異なるだけで、球技で使用する単なる丸い球という認識なのだろう。基本は常にボールの芯をとらえる。ボールの芯さえとらえることが出来れば、あとは大きさと重さが異なるだけの、本質は同じ球なのだ。

言うは易く行うは難しの典型的な事例だと思うが、同様のことをJリーグの選手に依頼したらどうなるのかは想像するとして、基本技術を極めることがいかに大事なのかを改めて知らされたプレイではあった。

EURO2012を見ているとスペインやドイツの選手のプレイにその基本技術の高さを感じる。テレビで見ているといとも簡単に、誰にでも出来そうなプレイに見えるが、実は難易度MAXなのだ。イニエスタやダビドシルバは切れまくっているが、その好調ぶりを是非とも決勝戦まで維持して欲しいものだ。

●西武・中村だけがなぜ統一球を飛ばせるのか

プロ野球は一昨年までの「よく飛ぶ」とされたボールから、飛び方の小さい低反発球に11年から切り替えた。それまでミズノ、アシックス、ゼット、久保田の4社の製品の中から各球団が選んでいたボールをミズノ1社に統一した。理由は「国際基準に合わすべき」というコミッショナーの指導の下で、国際使用球に近い仕様にするためだ。

この低反発球で野球が変わった。投手ランキングには防御率1点台がずらりと並び、打者は本塁打が激減。これでは商売にならないと泣きが入り、選手会がボールの影響を検証するよう要望している。ちょっと待てよ、と言いたい。なんのために低反発球を導入したのか。

10年までの飛ぶボールに慣れて、力強いスイングを失った日本の打者は、今や「メジャーでは通用しない」と烙印(らくいん)を押されている。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などの国際大会で、国際球を打ったときに通用しなくなる恐れもある。日本球界オンリーの仕様でなく、グローバルスタンダードに合わせなくては、ということで統一球にしたはずではなかったのか。
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飛ぶボールは日本人野手の技術を下げ、メジャーでの評価の低下をもたらした。日本で30本ホームランを打つ選手が、向こうでは2ケタ打てるかどうか。泳いだり、こすったような当たりでも10年までの球なら本塁打にできた。これがガラパゴス化を促した。

フルスイングしなくても、オーバーフェンスできるという“バブル的状況”が、各打者のスイングを小さなものにしてしまっていたのだ。昨年から各球団が統一球対応を進めた結果、バントを多用し、盗塁、エンドランといった小技を重視するようになっている。中軸にも進塁打を意識したと思われるスイングが目立つ。

本当にそれでいいのだろうか。ボールが飛ばないとして、それならばなぜ、それを飛ばしてやろうという発想が出てこないのか。力強いスイングを取り戻すために採用された低反発球なのに、野球がどんどん小さくなってしまうのでは本末転倒だ。
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おかわり君だけが本塁打を打てるのはなぜか、という問題を考えるためのヒントがここにある。彼のスイングスピードは日本人選手のなかで突出したものではない。彼と並ぶヘッドスピードを持つ打者は何人もいる。では、どこが違うのかといえば、意志の問題ではないだろうか。当たり前ではないかと言われそうだが、おかわり君はホームランを打とうと思っているから打てるのだ。
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飛びにくいといわれている統一球だが、ちゃんと芯に当たれば飛ぶというデータがある。ボールの規格には反発係数というのがあって、0.4134から0.4374のなかに収まるように定められている。統一球はこの最低ラインの0.4134ぎりぎりまで反発力を落として、飛びを抑えたという。
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ただ、メーカーの実験によればバットの芯で捕らえた場合の飛び方はほとんど変わらない。時速144キロの球を時速126キロという標準的なプロのバットスピードで捕らえた場合の平均飛距離を比べると、以前の飛びやすいボールが平均110.4メートルだったのに対し、統一球は109.4メートルと、1メートルしか違わなかった。